はじめに

 聖学院は、1903年(明治36年)アメリカ合衆国ディサイプルス教会から派遣された宣教師による神学校の設立に端を発し、その後幼稚園、小学校、男女の中学校・高等学校ならびに女子短期大学(現在は本大学に統合)まで発展拡大し、1988年(昭和63年)に開学された聖学院大学をもって、キリスト教一貫教育の文化総合学園の完成段階に到達した。聖学院大学はその後も拡大発展を続け、現在3学部5学科、大学院3研究科を擁している。本大学の特徴として、大学自身の明文化された理念を有し、それに基づいて運営されているだけでなく、すべての学部・学科がそれぞれ明確な固有の設置理念を持っていることである。

聖学院大学の理念

 十力条で構成されている前掲の理念は、大学の設置にあたり「聖学院大学理念検討委員会」によって審議、作成され、開学の準備はもちろん、教育、研究、行政等も全てこの理念に基づいて運営されている。

政治経済学部の設置理念

 18世紀の後半、西欧市民社会の成熟期にあたり、初めて社会科学としての経済学が成立したとき、それは政治経済学(ポリテイカル・エコノミー)として構想されたが、爾来、科学技術のめざましい進展の過程で、技術的にも社会的にも分業が進み、これに対応する学問も細分化、専門化の一途をたどってきた。しかし、今日の社会は、過度に専門化された知識をもってしては、かえってその現実の態様を捉えることができにくくなってきている。巨大な総合的有機体としての現代社会の認識のためには、高度に専門化された知識を生かしつつ、学際的な総合による把握が不可欠となっている。
 ここに統合学部としての政治経済学部が構想された。キリスト教思想の伝統においては、ポリティックス(政治学)とエコノミックス(経済学)とは分けられず、広い意味でのエシックス(倫理学)として捉えられていた。この統合は、今この新しい社会状況の中で、現代的妥当性を持って再現されるべきであると考える。

1) 政治経済学科の設置理念

 日本は現在、他の国々と相携えて秩序ある世界経済の発展に貢献する責任をますます大きく背負う立場にあり、欧米先進諸国とイコール・パートナーとなるに至っている。一方国内的には、都市化・工業化・民主化・情報化の波は日本の地域社会をも、国際的変化に直接連動させる結果をもたらし、日本社会を大きく変えつつある。このような社会変動の渦の中で、一方での科学技術の国際化と他方国際関係の理解や、協応の実をあげるためには、国内外を問わず、政治経済が新たに重要な意味を持つに至り、実社会の第一線で働こうとする人材の教育には、政治経済の統合された知識が不可欠となってきた。
 そこで本学科では、国際的視野に立つ知識や教養を重視する立場から、まず語学教育を重視する。また、キリスト教世界に属する諸外国の政治経済を中心とする地域研究を進める一方で、日本やアジアその他の国々の地域研究を行い、両者を比較考量する知識を授けるとともに、本学が立地する埼玉県が日本の中でも最も典型的に都市化、高齢化、就業人口の急増化、階層変化等が急速に進みつつある地域だけに、このような社会変動を政治経済の局面において捉え、また社会学的、行政的、法的な観点からも考察する。

人文学部の設置理念

 人文学部は古い伝統をもつ大学の「人文学」と呼ばれる学問研究を継承する学部であるが、現代のモダナイゼーションとグローバリゼーションは古いフマニタスの概念に新しい含蓄を与え、人文学部の新しい妥当性をもたらした。「人間」への関心は、新しい文化形成に深い関わりを持っている。
 本学は、プロテスタント・キリスト教の文化伝統を受け継ぐ大学として、欧米文化の研究的教育的継承を課題とする欧米文化学科とプロテスタンティズムの日本到来が惹き起こした日本文化との出会いの結果として日本文化を新しい視点から研究し教育する日本文化学科を擁し、人文学部を構成するものとした。そして、さらに2018年度から、児童学科(現子ども教育学科)を人文学部に設置することとした。人文学部児童学科(現子ども教育学科)は、その前身を人間福祉学部においていたが、もともとは女子聖学院短期大学児童教育学科を母体に平成4年に聖学院大学に新設された人文学部児童学科であった。今回、文化創造の営みである教職課程を、文化継承研究と並ぶ人文学部における教育研究の主軸の一つに据え直すにあたり、位置づけしなおしたものである。

1) 欧米文化学科の設置理念

 時代の趨勢である国際化に対処し、本学は、その自らの存立が根ざすプロテスタント・キリスト教の伝統の精神および文化を継承しつつ、それを研究・教育する「欧米文化学科」を開設する。このことは、あたかも心臓が血流をもって生命体を生かすように、学校法人聖学院の内的要求である。また本学科は、日本国憲法によって規定され、しかもわが国が共有していることを世界に公言しているところの、いわゆる欧米西側文化価値を正しく理解し、それをもって国際社会に貢献し得る人材の養成に取り組むことを目的とする。
 欧米文化はその本質において「キリスト教文化」であるから、その精神的核心であるキリスト教の理解から欧米文化を探求させる。また英語教育には特に力を入れ、集中的に学習させる。歴史を縦軸とし、比較研究を横軸として国際文化関係、文化グローバリゼーションを探求する。また歴史、社会思想、文学、芸術、宗教、近代化論などをとおして、ヨーロッパ文化、アメリカ文化をそれぞれ統合的に把握する訓練を与える。

2) 日本文化学科の設置理念

 欧米のキリスト教文化の到来が惹き起こした日本文化との出会いは、単なる文化の比較論によっては捉えられない深い次元での文化接触であり、それは新しい日本学を要求するものである。今や日本文化の研究は、単なる多元主義による自家文化の特殊性の擁護や主張に留まることもできない。むしろグローバリゼーションという文化地平が拡大してゆく中で、自家文化の特色を自覚しそれを新しく人類文化の文脈の中で理解し、新しい文化交流へと生かすという、「日本学」が要求される。日本文化学科は、この新しい文化グローバリゼーションというコンテキストにおける日本学に取り組む。本学科は、日本文学のほか、広く歴史、宗教、思想、芸術など、ひろく視野を拡大して、日本文化の新しい見直しと統合の方向を模索する。また本学科は、近隣の東北アジアとの文化交流を視野に入れつつ新しい日本学を展開していく。

3) 児童学科の設置理念(※児童学科は2023 年4 月より子ども教育学科に名称変更)

 今回新たに、文化創造の営みである教職課程を、文化継承研究と並ぶ人文学部における教育研究の主軸の一つに据え直すにあたり、児童学科(現子ども教育学科)を人文学部に設置することとした。人文学部児童学科(現子ども教育学科)は、これまでの実績の上に、学科のデイプロマ・ポリシーに基づき、児童英語をはじめとする言葉の技能を身につけ、倫理観ある専門性を備えた幼稚園教諭、小学校教諭、特別支援学校教諭、保育士の養成を主たる目的とする。児童英語、インクルーシブ教育、子ども・子育て支援等の今日的課題を人文学的基礎のもとに探求し、キリスト教的人間理解と児童学を土台としながら人格として児童を理解する器量を備え、多様な教育課題・支援課題に臨み解決に向けた取り組みのできる教員・保育者等を育てる。そして、言葉の力を信頼し、言葉を受け止める力と言葉に拠って思考する力を身に付け、さらに言葉を媒体に他者を理解し他者とつながることのできる真のコミュニケーション能力を生かして一般公務員・一般企業等で奉職する幅広い職業人も養成する。

心理福祉学部の設置理念

 本学部の前身である人間福祉学部は、プロテスタント・キリスト教の精神に立って福祉社会の形成を探究する学部として、平成16年(2004)、同文化の継承を探究する人文学部から分離独立して開設された。今般、人間福祉学部児童学科の廃止と人文学部児童学科(現子ども教育学科)の設置にあわせ、人間福祉学部に残るこども心理学科と人間福祉学科を統合し、心理学と福祉の両面から、現代人の心の問題と現代社会の福祉的課題について学ぶ心理福祉学科を設置することとした。あわせて、一学部一学科となることから学部名も心理福祉学部と改めることとした。
 心理福祉学部においては、現代人の心の問題と現代社会の福祉的課題に関する専門的な知識を修得させ、プロテスタント・キリスト教の精神に基づく本学の理念「神を仰ぎ、人に仕う」のより具体的な目標である「良き隣人となる」人材の育成をめざす。

1) 心理福祉学科の設置理念

 心理福祉学科においては、現代人の心理および現代社会における福祉的課題に関する専門的な知識を修得させ、現代社会に生きる人びと、特に日常生活において身体的・精神的な支援を必要とする人びとの心理・社会的課題を理解し、共感し、支援する能力を修得させる。そして、そのことを通して、「良き隣人」として福祉社会の実現に寄与する人材の養成、さらには心理学および福祉学の専門知識をもって総合的に支援する専門職の養成を目指す。